
熱中症と低体温症の知識

熱中症とは
人は、環境によって体温が変動するカエルや魚などの変温動物とは違って、36 ~ 37℃の狭い範囲に体の温度を調節している恒温動物です。
この体温が体内の代謝や酵素の働きが最適の活動条件なのです。
熱中症は、体に熱がたまって体温が上がると、体内の代謝や酵素の働きのバランスが崩れて、以上が体に変調が起きて、最悪の場合には死亡することもあります。
熱中症は、いずれもカラダに溜まる熱が原因で、バランスが崩れてしまう症状に総称で、熱失神(日射病)、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分類されます
■熱中症を起こす要因
●環境の要因
体温が上がってしまう場合を考えてみましょう。
●熱中症になる環境
人間のカラダは活動しているので、安静時でもおよそ80Wの電球程度の発熱をしていますから、その熱を上手く逃がせないと、どんどん熱がたまって、体温が上がってしまいます。
環境によって、熱が逃がせなくなる原因を考えてみましょう。
●気温
まず気温が高ければ、カラダの熱が逃げにくくなります。
●湿度
汗の水が蒸発するときに奪う熱のエネルギーはとても大きくて、同じ量の水が100℃から 0℃に冷えるときに吐き出される熱の量のおよそ5倍にもなります。
湿度がひくければ、どんどん汗が熱を奪って、カラダが冷えるので、熱中症の危険が減ります。
湿度が高かければ、汗が蒸発しにくく、カラダの熱が溜まって、熱中症の危険が増します。
●風の2つの効果
体温より低い温度の風がカラダにあたると、風により空気がカラダに当たってどんどん熱を運び去るので、カラダは冷やされます。扇風機が涼しいひとつの理由です。
でも気温37℃のときに扇風機の風に当ってもカラダは冷えます。
風がないと、カラダに接する空気がたまって、そこだけ湿度が高い状態になります。
風が吹くと、その湿った空気をどんどん吹き飛ばしてくれるので、早く多くの水が蒸発することになります。風が吹くと洗濯物がよく乾くのとおなじで、よく乾くということはそれだけ多くの水が蒸発することですので、カラダの表面の汗が蒸発熱を奪ってくれるわけです。
●日光や電球などの熱源
直射日光にあたらなくても太陽光からの見えない熱線(ストーブなどでおなじみの赤外線)や電球の熱などの熱源でカラダが外部から暖められる場合も体温があがる原因です。
このように熱中症になる原因は、気温と湿度と風、そして日光などの熱エネルギー源の状態によるというわけです。
熱中症を示す指数(WBGT)をみると、
気温33度でも湿度が20%なら危険度は最低の注意レベル
気温が28℃でも湿度100%なら危険度は最高の危険レベル
ということになります。
●カラダの状態
同じ環境でも、カラダの状態によって、熱中症を起こすことがあります。
●高齢者、乳幼児、肥満は格別に注意する必要
高齢者は発汗機能が衰えていたり、発汗する感度が落ちていたりして、汗で冷やせないことがあります。乳幼児は代謝の発熱量がたいへんに多くて蓄熱してしいまう可能性があります。肥満は、正常体重の人に比べ、体重に対する表面積が狭いため、放熱しにくいことになります。
●持病 低栄養 体調不良 脱水状態など
そもそも、病気によりバランスが崩れているところですから、さらにバランスを崩しやすくなります。
●行動の状態
激しい運動やなれない運動や作業など発熱が多い場合、長時間の屋外作業でゆっくりでも蓄熱してしまう場合、十分な水分補給できないために発汗が制限されてしまう場合、いずれもカラダに熱を溜め込んでしまい、熱中症の危険が増します。
■熱中症の予防方法
- 涼しい服装
- 日陰を利用したり、日傘や帽子で日光を防ぐ
- 汗で出てしまう水分と塩分を補給する
- 急に熱くなるのは危険。(熱衝撃ということばがあるくらいです。)徐々に熱さにカラダを慣らす。
- 体調の悪いときは危険。そもそもバランスが崩れているので、カラダの調節が上手くできないので無理は禁物
●熱中症の対処方法
重症度 |
症状 |
対処方法 |
重症度Ⅰ度 |
手足がしびれる めまい、立ちくらみがある 筋肉のこむら返り(つる) 気分が悪い、ぼーっとする |
涼しい場所へ避難 水分・塩分の補給 自力で水分がとれなければ病院へ だれかがついて見守り |
重症度Ⅱ度 |
頭痛で頭がガンガン 吐き気、吐く からだがだるく倦怠感 意識がなんとなくおかしい |
服を緩め、ぬらしたタオルを当てたり、扇ぐなどからだを積極的に冷やす。 脇の下、両首筋、足の付け根など太い血管が通っているところを冷やす。血液を冷やすことでからだ全体を冷やす 病院へ |
重症度Ⅲ度 |
意識がない からだがひきつる痙攣 呼びかけに返事がない まっすぐ歩けない。走れない からだが熱い |
服を緩め、ぬらしたタオルを当てたり、扇ぐなどからだを積極的に冷やす。 脇の下、両首筋、足の付け根など太い血管が通っているところを冷やす。血液を冷やすことでからだ全体を冷やす すぐ病院へ |
熱中症に関してよくまとまった資料および引用
熱中症環境保険マニュアル(2014 環境省)
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual/full.pdf

低体温症とは
私たちのカラダは、「暑い環境」では、体の中心部はもちろん、腕や脚の中心部分までが37℃になっています。
「涼しい環境」では、頭や胴体の中心部のみが37℃で、肩から腕、下腹部から脚にかけて広い範囲で温度が低くなっています。
ところが「寒い環境」では体の中心部でさえも35℃以下まで低下してしまうことがあり、これを「低体温症」の状態といいます。
体温が35℃ほどになると、抹消血管が収縮し、おなじみの震えににより、発熱しようとします。このとき、酸素の消費量は急増し、血圧も上昇しますので、高血圧による脳出血などの危険も起こります。
冬の朝、暖房のないところで高齢者が脳出血を起こす原因にもなります。
体温が30℃になると、震えも止まり、心臓に不整脈などが起こりやすくなり、発熱も減って、危険な状態になります。
一部 TERUMO体温研究所からの抜粋。
http://www.terumo-taion.jp/health/teitaion2/01.html
■高齢者でなくても危険
●症例1
2010年4月 50歳男性の場合
自宅居間で倒れていて、救急搬送された。独居で暖房器具使用なしで、着衣はあり、寝具の使用はなく、入院後15時間を経て、ショック状態になり、22日後に退院した。糖尿病性の昏睡のため体温を奪われる寒さから逃れられなかった。
●症例2
2010年12月 92歳女性の場合
話さなくなって、救急搬送された。寝具使用、暖房器具使用なく、消化管出血を発症して5日後に死亡した。
●症例3
2011年1月 63歳女性の場合
自宅寝室で寝具を剥ぎ、うなり声を上げたため、救急搬送された。下着のみ着用で、暖房器具使用はなく、低体温以外に意識状態の異常をきたす病気はなく、その後退院した。
資料
「救急搬送された偶発性低体温症の6症例」 昭和大学横浜市北部病院救急医学科 菊嶋 伊藤 兼坂 昭和医会誌 第72巻 第4号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma/72/4/72_503/_pdf
「本邦における低体温症の実際」日本救急医学会 熱中症に関する委員会 日救急医会誌. 2013; 24: 377-89
http://www.jaam.jp/html/nettyu/20130822_teitaion_houkoku.pdf
■低体温症を起こす要因
●環境の要因
体温が下がってしまう場合を考えてみましょう。
●低体温症になる環境
環境によって、体温が下がってしまう原因を考えてみましょう。
・気温
寒い環境での活動は注意が必要です。
過労、年齢による衰えや乳幼児のカラダの対応力が不足で体内でつくられる熱の量が少ない場合は注意が必要です。
過労、年齢による衰えや乳幼児のカラダの対応力が不足で体温を調節する体の仕組みが低下している場合は注意が必要です。
・湿度と風
体から熱が奪われることで、発症します。
熱中症のところで書いたように、低い湿度で風で熱が奪われれば熱中症の危険があります。
夏でも扇風機やエアコンの風を受けたまま寝てしまったりすれば、体温が奪われて、低体温症になる危険があります。
●発症する状況
「寒冷反応」と呼ばれる反応
カラダは、体温が35℃まで低下すると末梢血管が収縮し体熱の放散を防ぐとともに、筋肉が震えて熱を発生させ、体温を上昇させようとします。
寒冷反応が起こっている間は、酸素の消費量が著しく増大します。
さらにカラダが冷えると、熱量の喪失がカラダの発熱を上回ると、筋肉の震えは止まり、体温はさらに下がり、各臓器の機能も低下してきます。
体温が30℃以下まで低下すると不整脈など心臓のトラブルが起こりやすくなってしまいます。